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世界に誇れる「弱さ」と「強さ」とは!?
2015年03月20日
今回は読み切り番外編です。
「世界に誇れる弱さと強さ」を備えたある男について述べたいと思います。
彼は金メダルを期待される一流の選手でした。
日本中の期待を背負い、2000年シドニー五輪の柔道男子100キロ超級に出場しました。
彼は順調に勝ち進み、決勝にコマを進めます。
この決勝で事件が起こりました。
試合序盤、彼と対戦相手は互いに警戒し、組み手争いに終始。
技を掛け合うような展開には至りませんでした。
試合開始から1分40秒が経過した頃、試合が動きました。
対戦相手が彼に内股を仕掛けてきたのです。
しかし、彼はその動きを見抜き、内股すかしで応戦、対戦相手を背中から畳に叩きつけたのです。
彼は一本勝ちを確信し、両手を挙げてガッツポーズしました。
会場に応援に来ていた日本人もいっせいに立ち上がり歓喜の声を挙げました。
ところがその直後、信じられないことが起こります。
審判の判定は、
対戦相手に「有効ポイント」だったのです。
誰もが目を疑いました。
会場は騒然となりました。
しかし、判定は覆らず試合は続行されました。
その後、対戦相手は動きが消極的になります。
そして、あまりの消極さに「指導」を取られてしまいます。
これで彼と対戦相手はお互いに「有効」が1つずつとなりました。
残り時間は僅か。
細かいポイントを奪えば勝敗の趨勢が決する状況でした。
残り時間が45秒になったときです。
彼は内股を仕掛けました。
しかし対戦相手を倒しきることができず、逆に対戦相手に返され、腹ばいに倒されてしまいます。
主審はこれを「有効」と判定。
対戦相手が一歩リードする中、彼は懸命に反撃を試みるもポイントを得るに至らず、試合は終わってしまいました。
彼は、この試合に敗北したのです。
試合が終わって約15分後に表彰式が始まりました。
彼は「絶対に泣かない男」と言われていました。
その彼が、表彰式で涙を流しました。
マスコミはこの事件を「世紀の大誤審」として大々的に報道しました。
「あれは誰が見ても一本だ」
「彼は勝っていた」
「金メダルは彼のものだ」
彼はこの事件について、一切の言い訳も抗議もしませんでした。
そして、次のような言葉を残しました。
「審判も対戦相手も悪くない。全て自分が弱いから負けたんです。」
この話、ご存知の方も多いと思います。
そうです。
最近、頻繁にテレビに出ているあの方、
篠原信一さん、のお話ですよね。
今回、なぜこの話を「本音ブログ」で書こうと思ったのか。
それは、
「審判も対戦相手も悪くない。全て自分が弱いから負けたんです。」
という言葉の奥に「世界に誇れる弱さと強さ」があることを知ったからなんです。
篠原さんはあるテレビ番組であの時のことを次のように振り返っておられました。
あの判定の後、自分の気持ちを切り替えることができませんでした。
「あの内股すかしで俺勝ってたやろ。何でや?おかしいやろ?何でや?何でや?もう勝ったやろ…」
「仮に有効だとしても、そのポイントは俺のポイントやろ。何でや?おかしいやろ?何でや?何でや?」
試合中、このような不平不満にとらわれてしまい「もう一回相手を投げ飛ばしてやろう」という風に気持ちを切り替えられなかった。
試合が終わり、控え室に戻り、表彰式までの約15分間のあいだに、
なぜあそこで、
「もう一回相手を投げ飛ばしてやろう」という気になれなかったのか・・・。
このことが悔しくて、気持ちの切り替えができなかった自分に悔しくて涙が止まりませんでした。
彼は一流のアスリートです。
一流にまで登りつめる人間には「うまくいかなかった原因を自分の中に見い出す」という強さがあります。
絶対に他人や環境のせいにしない、という強さです。
彼は試合中、うまくいかなかった原因を自分以外の方向に向けてしまいました。
試合後、控え室に戻って冷静になると、彼の「真の強さ」が自分の心を支配し始めたのだと思います。
なぜあそこで、
「もう一回相手を投げ飛ばしてやろう」という気になれなかったのか・・・。
「審判も対戦相手も悪くない。全て自分が弱いから負けたんです。」
気持ちを切り替えられなかったことは自分の「弱さ」だったのかもしれません。
しかし、その弱さに自分で気づき、言い訳も抗議もせず、全てを受け入れて歩むその生き方は一流のアスリートとしての「強さ」なんだと思います。
今回のブログのタイトルを「世界に誇れる弱さと強さ」にしたのは、このことをお伝えしたかったからなんです。
ちなみにこの事件以後、国際柔道連盟は、誤審防止や判定の難しいケースに備えてビデオ判定を導入しました。
ルールの徹底と試合判定の明確化に力を入れるようになり、現在のジュリー制度のきっかけとなった試合だと伝えられています。
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